ビジネスコラム 第5回「人財価値をつくる賃金制度とは」

これまでの本連載では、経営力とは組織力であり、会社を伸ばす「人財力」は誇りを共有する組織活力から生まれるプロセスを明らかにしてきた。さらに、人が価値を生む最大資源であり、仕事のやりがいが成長意欲を伸ばし、組織活力が競争優位を生むという「人財資本生産力=人財成長力+組織活性力」という公式が人財価値経営の核心になることを確認してきた。

では、人財成長力を引き出し、組織活力を生み出す賃金制度とはどのように考えればよいのだろうか。今回を含めて四回にわたって明らかにしていきたい。

 

「賃金と人財資本」のサイクル

 

人件費をコストとして考える金銭価値経営に対して、「人財=資本」とする人財価値経営では賃金をどのように位置付ければよいのだろうか。

マネジメントの父とされているピーター・ドラッカーは、1974年の著作である「マネジメント」(邦訳、ダイヤモンド社刊)において、すでに労働による賃金と企業持続における資本の関係性について触れている。

同書の第三章「仕事と人間」のなかで、労働における五つの次元を明らかにしている。そのひとつが経済的次元だとした。そのなかで「労働は生計の資であると同時に、それは経済活動のための資本を生み出す」として、「その資本は経済活動が永続するための基盤をもたらし、明日の職場をつくり」、そして、「明日の労働に必要な生計の資を生み出す」という資本部分と賃金部分のサイクルによって企業は成り立っていると定義した。

同氏はもともと、戦前の著作である「企業とは何か」で、「企業とは人の組織である」ことに着眼していたが、「人財=資本」の側面をすでに70年代の前半でとらえているのは、「人財価値経営」における賃金制度を考えるうえで多くのヒントを与えてくれている。

すなわち、「賃金と人財資本」のサイクルとしての「明日の職場をつくりだす」原資であることを満たす賃金制度とはどのようにデザインすべきなのだろうか。

 

賃金決定の三つの輪

 

本来賃金とは、従業員の側からは、その会社に勤務することによって将来の見通しがつくと思わせる賃金制度設計でなければならない。一方、その設計のもとに、企業の側は、長期雇用の戦略のなかで人財を成長させながら企業価値を高めていくことになる。

では、その賃金とはどのように決定されるべきなのだろうか。明治学院大学教授の笹島芳雄氏が「賃金決定の手引き」(日本経済新聞社)で定義した「賃金の三つの輪」を参考に振り返ってみたい。この三つの輪には、図のように賃金の性格における三つの輪と、公正な賃金の考え方の三つの輪の二種類があり、賃金はこれらの賃金の三つの性格と賃金公正の三原則がリンクして成立している。

賃金の性格を示す最初の三つの輪には、売上・利益に応じた「企業活動の成果として」の輪、これまでの賃金がベースとなる「生活費として」の輪、そして、労働の需給関係が反映された「労働の価値として」の輪がリンクしている。

二つ目の三つの輪である「公正の原則」は、仕事の価値に応じて支払う「内的公正の原則」、世間相場が保障されるという「外的な公正の原則」、それに、働きぶりに応じて賃金に差をつける「個人間公正の原則」から形成されている。後者によって賃金の決定法などの運用面が示されていることになる。

これらのリンクされた「賃金の三つの輪」を満たすことによって、その会社に仕事を続けることによって「やりがい」を得られ、将来の見通しがつくと従業員に思わせる賃金制度となる。

とくに中小企業では、従業員が長く勤めたいという気持ちを起こさせる採用の戦略が大きく求められ、ある程度の年間報酬水準を確保することが必要となる。すなわち、とにかく雇用してしまえば、あとも勤務を続けてくれるだろうと考えるのではなく、採用される側からみて、将来にわたって生活が確保されると思うことができる賃金システムのデザインが「人財=資本」となりうる要件を満たすために必要なのである。

もちろん、就職時には賃金への不安を比較的感じない大手の有名企業であっても、将来的な安定的な働き方ができるという見通しがもてる賃金処遇が設計されていなければ、育てた人財が逃げることになり、「賃金―人財資本」のサイクルは崩壊する。

<賃金の3つの性格>

資料:「賃金決定の手引」日本経済新聞社 笹島芳雄 著

<公正な賃金の考え方>

資料:「賃金決定の手引」日本経済新聞社 笹島芳雄 著

 

賃金制度は、評価制度、目標管理制度と一体

 

しかし、本連載第三回の「従業員満足なくして企業活力なし」で、マズローの欲求の五段階説とハーズバーグの動機付け理論を用いて説明したように、賃金制度は、賃金水準だけを問題にするものではない。将来への見通しがもてる賃金体系か、あるいはいかに仕事の質の上昇に見合った賃金体系が確立できているかということが「やる気」のベースとして、「動機付け要因」に結びつくのである。

したがって、賃金水準の高低が「やる気」を生むのではなく、賃金の上昇とリンクした仕事の質の上昇が「他者からの尊敬や承認」や「自己成長への充実感」を生み、「やる気」「やりがい」と結び付いているのである。すなわち、賃金とは、「やる気」「やりがい」「自己成長」に橋渡しができる賃金体系の構築・運用が不可欠になってくる。そのなかから、資本部分を高めた活力ある人財が育成されるのである。

したがって、「やりがい」に結びつく仕事の質のステップアップと賃金水準のアップの実現には評価制度とリンクさせることが不可欠になる。そのうえで年間報酬のグランドデザインをしていくことが制度設計のベースとなろう。

また、評価制度は、個人を成長させるだけではなく、それぞれがより大きな貢献に向かう組織活力をつくっていくうえでも大きな働きをする。なぜなら、評価制度は特定の個人が個人を評価するのに終わるのではなく、目標管理制度とリンクによって評価制度が運用され、その目標と職務の遂行状況が業績評価のベースとなるからである。

従来の評価の考え方では、評価は仕事の「正確性」「速さ」「計画達成度」という抽象的な項目だったが、目標管理制度のもとでの評価制度の運用はP(プラン=目標シートの作成)、D(ドゥ=目標内容の実行)、C(チェック=目標内容の結果評価)、そしてA(アクション=改善)を行うことによって、次期のPDCAのサイクルをしっかり回していく作業となる。それらは評価する側、評価される側に一体感をもたらし、人財成長とその所属する組織が活性していく源となる。

人財価値をつくる「賃金―人財資本」のサイクルは、評価制度、目標管理制度と一体になった賃金制度が欠かせないのである。

 

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