ビジネスコラム 第4回「高人件費時代の到来と人財価値経営」

これまでの本連載では、経営力とは組織力であり、会社を伸ばす「人財力」は誇りを共有する組織活力から生まれるプロセスを明らかにしてきた。
そして、企業活力の源泉は「人」であり、従業員満足を中心に据えて、顧客満足、取引先満足、社会満足の四つの満足の連関をマネジメントすることが、会社を伸ばす経営であることを確認してきた。
第四回は、その企業活力を生み出すマネジメントの中核となる人財価値経営について述べたい。

 

人財価値経営vs金銭価値経営

 

人財価値経営とは、モノ、カネ中心の旧来のビジネス思考である「金銭価値経営」とは違って、「会社の価値の源泉は人財にある」と考える経営である。すなわち、従業員の独創性や高いスキルによって業務ノウハウや技術開発力が会社に蓄積され、顧客や取引先からの信用、そして社会的評価を獲得して、企業価値を高めるマネジメントである。
一方、モノ、カネ中心の「金銭価値経営」の手法は、モノの生産に価値を見出す二次産業中心社会の中で生まれたものであり、重厚な装置産業でなくとも、人の知恵がさまざまなサービスを生み出していくこれからの知識産業社会にはフィットさせるには無理がある。とかく人を材料や部品の交換と同じ発想で「管理」の対象にしがちだったマネジメントではなく、従業員を育て、成長させることに人財価値経営ではシフトしていかなければならない。
連載第一回目で述べたように、これからの人事・労務部門の役割が、企業理念・経営方針を問い直して企業ミッション(使命)を明確にし、それを従業員たちと「誇り」をもって共有する組織を創造することであるとしたのは、「金銭価値経営」からの脱却を意味しているのである。いわば、人とその組織の文化を育てていくことが、他社にまねのできない競争力となり価値づくりとなるという経営戦略上の発想を大きく転換していくことが求められる。

 

高い人件費水準を吸収させるマネジメント

 

先進国では宿命的ともいえる高い人件費水準を吸収させていくためには、旧来の「金銭価値経営」では、リストラが当然だった。
人財価値経営を目指すことは、従業員一人ひとりが成長し、仕事の質を高めることによってスリムで、神経回路が効率的に機能する活力ある組織体を創っていくことであり、自然と会社のぜい肉をとりことに主眼がおかれる。
わが国でも今後高まることが必至の人件費水準を吸収させるための処方箋マネジメントとなると考えている。
ちなみに、人件費の高水準化とは、昨年4月の改正労働基準法施行による月間60時間超の残業代が50%増という割増賃金率の上昇(中小企業は当分の間適用猶予)だけではなく、社会保険負担額の上昇やワークライフバランス・介護などの休業が増えることによる社会政策的なコスト上昇のためにおこる現象のことである。 加えて、「時間外労働の限度に関する基準」改正の「時間外労働は本来臨時的なものとして必要最小限度にとどめられるべきもの」の趣旨からは、残業代が1.50倍時代の到来が近い将来に予想される。
もしそうなれば、たとえば、社員100人の会社で、残業を月に40時間の場合、現在の25%時代と比較すると、下表のように、人件費が年間1700万円の増加になる。長時間労働が成果を生むという旧来の「金銭価値経営」を排除して、働き方の見直しや評価方法そのものを変えていかなければならないことが明白になってきている。

残業代1.50倍時代

■社員100人の会社で、残業を月に40時間の場合

25%増時代
(給与25万円÷月間労働時間170時間)×1.25×残業40時間×12ヶ月間×100人=8,800万円
50%増時代
(給与25万円÷月間労働時間170時間)×1.50×残業40時間×12ヶ月間×100人=1億500万円

さらに、健康保険が昨年3月(4月徴収分)から「かつてない大幅引き上げ」が実施され、このほか、厚生年金、介護保険、雇用保険、労災保険なども今後値上げのラッシュが続く。

とりわけ、厚生年金保険料では、平成17年8月までは保険料率が13.934%だったのが、以降毎年0.354%引き上げられ、平成29年9月以降は18.300%となって、以降は固定されることが決まっている。介護保険料についても、平成12年のスタート時点では、0.60%だったのが、途中で総報酬に対する介護保険料に変わり、なおかつ平成22年はそれが1.50%まで上昇している。

結果として、年収における社会保険料合計の割合は、下表のように2015年(平成27年)には33%を超えることが予想されるのである。

今後の保険料見通し①<比率ベース試算>

 厚生年金
保険料率
健康保
険料率
介護保険
料率
雇用保険
料率
労災保険
料率
保険料率合計
(全体)
2005 年0.142880.0820.01250.01950.0050.26188
2007 年0.149960.0820.01230.0150.00450.26376
2009 年0.157040.08180.01190.0110.0030.26474
2011 年0.164120.10660.0150.01550.0030.30422
2013 年0.17120.120.0150.01550.0030.3247
2015 年0.178280.120.0150.01550.0030.33178
2017 年0.1830.120.0150.01550.0030.3365

2009年比会社負担分アップ額 (年収500万円の社員100人 の会社の場合の試算)

<2009年対比各年アップ額>
2010年 5,760千円 >> 2011年 9,995千円 >> 2012年 14,230千円 >> 2013年 15,115千円
2014年 16,000千円 >> 2015年 16,885千円 >> 2016年 17,770千円 >> 2017年 18,065千円

2009年比会社負担分アップ額(8年間累計)
1億1,382万円

 

「人件費=コスト」から「人財=資本」の思考へシフト

 

これらの高人件費時代の到来においては、従来の「金銭価値経営」では習慣的に考えられてきた「人件費=コスト」から「人財=資本」の思考へシフトが必要となるだろう。
「人件費=コスト」とはマネジメントと労働者が分離していた二次産業時代の遺物である。当時の工場では、経営側が策定したプランに沿って作業をするだけで、ノルマの達成を管理させていればよかった。
しかし、知識産業社会では従業員一人ひとりの働きが利益を生み出す「主役」なのである。 したがって、「人財=資本」の思考のもとで、いかにスリムでムダのない人財資本で効率経営を引き出すかがマネジメントの役割となり、人財資本生産力を高めることが人財価値経営の大きな課題となってくる。
経済学では古くからヒューマンキャピタル(人的資本)という用語が使われてきた。しかし、ヒューマンスキルなどと同様に人に資本投下するという感じで使われ、はっきりと人=資本=純資産の流れとしては理解されてこなかったように思える。 いまこそ、人が価値を生む最大資源であり、仕事のやりがいが成長意欲を伸ばし、組織活力が競争優位を生むという「人財資本生産力=人財成長力+組織活性力」という公式が求められるのである。

次回以降は、その公式をつくる人財価値を高める賃金システムのあり方とその仕組みについてお伝えしていきたい。

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