ビジネスコラム 第3回「従業員満足なくして企業活力なし」
本連載第二回目では、一人ひとりが自律的に働き、行動するパーソナリティが生まれるメカニズムに着目して、「人財力」の生まれるプロセスを見てきた。そして、その人財成長は組織活力なくして生まれないことを確認してきた。
今回は、組織活力のベースとなる従業員満足について考えていきたい。 これからの人事・労務部門の役割は、企業理念・経営方針を問い直して企業ミッション(使命)を明確にし、それを社員たちと「誇り」をもって共有する組織を創造することであると、第一回目の「経営力は組織力」で明らかにした。
その企業のミッションはその企業がお客様や社会に育まれる基盤をつくるものであり、基盤づくりに欠かせないのが、四つの満足(サティスファクション)の連関である。とくに従業員満足(ES)は下図のようにその中心に据えられる。
ES(エンプロイーサティスファクション=従業員満足)
CS(カスタマーサティスファクション=顧客満足)
PS(パートナーズサティスファクション=取引先満足)
SS(ソサエティサティスファクション=社会満足)
では、なぜ四つの満足の中心が、企業にとって収益をもたらすCSではなく、従業員満足なのだろうか。それは、従業員の意識化された行動こそがその企業の商品やサービスのレベルを高め、それがCSの向上につながり、最終的に企業の収益性を生み出すからである。もっと詳しく見てみよう。
従業員がたんにモノをつくったり売ったりするだけではなく、考えることによって、お客さまに満足していただけるモノをつくって売る「意識した」行動がなければ、お客さまにもその心が伝わることはなく、CSにつながることはない。そして、その行動によって生まれたお客様の満足の声が企業にフィードバックされ、従業員のESがさらにアップしていくのである。すなわち、ESとCSの二つは密接に連動しながら、企業の持続的な収益性を確保していくのである。
同様に、取引先満足や社会満足においても、相手先を「想う」気持ちがなければ、それぞれの満足は生まれることはない。その「想う」気持はESから引き出される「意識化された行動」なくしてば生まれることはない。すなわち、ESが四つの満足の連関の中心を形成しているのである。
また、人の欲求段階を5段階に分けた有名なマズローの欲求の五段階説でも、人間の欲求を100%として見た場合、第4段階までの基本的欲求(生理的欲求・安全欲求・社会欲求)は55%に過ぎず、働きがいや生きがいの第4段階目以降の成長欲求(名誉欲求・自己実現欲求)の部分が残りの45%だとされている。賃金水準は残念ながら、基本的欲求の部分であり、ハーズバーグの「動機づけ要因」と重ねると、その45%を占めているのは、①仕事を通してのやりがいと使命感、②自分が成長しているという充実感、③自分の将来、企業の将来性に対する見通し―の三点にまとめることができる。
この45%も占める成長欲求の部分について、会社の経営のしくみのなかに取り入れ、会社の理念や目標と、従業員一人ひとりの成長欲求という人生設計のベクトルを合致させる経営人事のマネジメントが求められているといえる。
すなわち、従業員一人ひとりの成長欲求を満たす従業員満足を中心に据えて、四つの満足の連関をマネジメントすることが、企業活力を生む源泉となり、そのマネジメントシステムが出来上がることにより、付加価値を高めるパワーアップされた活力ある人財が育成され、企業文化が革新され、企業の業績アップが実現できるのである。