ビジネスコラム 第12回「人事システムの可視化と後継者問題」

バブル経済崩壊後、失われた20年と呼ばれ、長きに渡り日本経済は低迷し続けてきた。そして東北地方太平洋沖地震以降、我われの価値観は明らかに新たな方向へとシフトしてきている。
生産性のみを追求した経営から「人材」の価値をあらためて見直す時期に来ているのではないだろうか。
今の時代にふさわしい働き方や生き方を見出し、仕事を通じて従業員一人ひとりが充実感の得られる、「心」を大切にした経営が求められているのである。
 
最終回である今回は、人材の価値を見出し、持続的に成長する企業の創り方と後継者問題について言及していく。

 

企業価値を育む4つの欲求

 

企業活動とは、人の営みでそのものである。二十一世紀を代表する経済学者 ジョン・ケネス・ガルブレイス博士は、「文化とは、一人ひとりの人間の拠って立つ基盤を、お互いに尊重しながら『みんなで幸せになっていこう』という人類特有の祈りであり、営みである」としている。
つまり、従業員一人ひとりの想いが、企業文化を創り上げ、企業活動を支えているのだ。
それでは、ジョン・ケネス・ガルブレイス博士のいう「幸せ」とは何を意味するのだろうか。
マズローの欲求の五段諸説では、人間の欲求=従業員の満足度を100%として見た場合、賃金にあたる部分の欲求(基本的欲求)は55%に過ぎず、残りの45%は「働きがい」や「生きがい」にあたる成長欲求の部分とされている。モチベーションの性質と人のやる気を解いたハーズバーグの「動機づけ要因」を重ねると残りの45%を占めている成長欲求を以下の4つにまとめることができる。

  1. 仕事を通してのやりがいという使命感
  2. 自分が成長しているという充実感
  3. 会社に貢献しているという達成感
  4. 自分の将来、企業の将来に対する見通し

 

「やる気」を高める人事の仕組み

 

これまでの経営者は、この45%に対する成長欲求について、どのように向き合ってきただろうか。特に成長段階にある中小企業においては、経営の需要課題であると感じながらも、直近の利益を稼ぐことに追われ、緊急度の低い人事戦略については後回しになってきたのではないだろうか。
しかし、現実には従業員の満足度が満たされない限り、一時的な成長は見込めたとしても、企業の持続的な成長は期待できない。すなわち、生き残りをかけた経営の重要課題として、人事戦略への取り組みが緊急に求められている。
従業員の満足度を高める経営とは、これまでも紹介してきたとおり、会社の理念や目標と、従業員一人ひとりの成長欲求を合致させることが重要である。そして、この経営の核となるのが人材育成型の人事システムである。
人材育成型の人事システムとは、従業員の日々の仕事に対して会社がどのように報いる(=リワード)かを、可視化して戦略的に設計する仕組みである。こうした側面からこの人事システムを「戦略リワードシステム」とも呼ぶ。

図では、右の列が「企業目的」、左の列が「従業員の期待」、そして真ん中の列が「企業目的」と「従業員の期待」をつなぎシステム化する「人事の制度・しくみ」である。 右の「企業目的」の中に、企業理念に基づいた経営目標、経営戦略があり、それによって業績向上を目指し、これらを達成することで企業の目的が果たされ、経営理念が実現していくというサイクルが示されている。左の「従業員の期待」では、「適正な処遇」、「貢献・評価」がもたらす「基本的な欲求部分」と「企業のなかで、いかに自分を成長させるか」という「やる気」がリンクする。

つまり、人事システムを体系化することにより、活力のある人材育成と企業文化が醸成され、持続的な成長を実現する最強企業が育まれるのである。

 

図2-最強企業を創造する人事システム

補充可能な「人材」ではなく、企業全体の資産と捉えた「人財」として育成。
従業員の付加価値が高まれば高まるほど、仕事を通じて生きがい、働きがいが感じられる企業文化を醸成し、市場の変化に強い最強企業を創ることができる。

 

中小企業に潜む後継者問題

 

図3-資本金規模別の代表者の平均年齢の推移 <出典>「社長交代率調査(帝国データバンク)」中小企業白書

中小企業が、今、人事システムの構築に取り組むべき理由がもう一つある。それは、経営者の高齢化である。 我が国の平均年齢が高齢化する中で、経営者の平均年齢も60歳に手が届きつつある(図3)。 しかし、会社内の影響力の低下を恐れて、後継者問題への着手がなかなか進まないケースも少なくない。 日本の中小企業は、創業者の意志決定が事業活動そのものにむすびつくため、経営者自身がルールブックであり、社内のすべてのルールが体系化されていないことが往々にしてある。 そのため、急病などにより、ある日突然、創業者が引退することになってしまうと企業の求心力が一気に低下してしまう可能性がある。下手をすると事業存続自体が危ういものになりかねないのだ。

 

こうした経営の危機を未然に防ぐことができるのが、人事システムの体系化である。中小企業庁が推進する円滑な事業承継においても、「経営に対する価値観、態度、信条といった経営理念をきっちりと後継者に伝えていくことが本質である」とうたっているが、人事システムの構築はこうした創業者の経営理念を明文化し、何のために事業活動を行うのかを後継者および社員全員と共有する良い機会となる。
日本の中小企業は、企業全体の90%以上、法人・個人事業主を含めると433万人とされている。雇用数では企業全体の70%を占めており、優れた人材や技術を有する企業も数多く存在する。日本経済の健全な発展のためにも、こうした優れた人材や技術を未来に継承する環境を整えることが不可欠である。後継者問題を抱える企業にとっては人事システムの体系化が急務であると言えるだろう。

 

さて「人材価値を高める人事」をテーマに、その重要性について紹介してきたがご理解いただけただろうか。
企業価値を高める源泉は「人」である。経営者は、従来から「市場心理」を見極める能力が求められてきたが、今後は、従業員の立場に立った「従業員心理」を見極める能力も求められる。従業員一人ひとりの「やる気」を引き出し、仕事を通じて充実感が味わえる、そんな企業風土を育てることが、結果的に不況に打ち勝つ企業を創り出すのである。

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