ビジネスコラム 第2回「人財力は組織活力から生まれる」

企業価値を生む人財力とは

 

第一回目では「経営力は組織力」と題して、これまでのたて構造の「組織力」ではなく、一人ひとりの使命感や存在価値を相互に感じ合うような「企業組織づくり」が競争優位を生み出し、人を活かす経営力が成長余力を限りないものにしていくことを確認した。
そして、今や、いかに仕事の意欲にあふれ、働きがいを感じる「人財」を育て、組織活力を生み、高収益体質をつくり出すかという「雇用の質」を高めることこそが会社経営の最大課題であるとした。ではどのようにして「人財力」は生まれるのか、今回はそのメカニズムを見ていきたい。

まず、人財力とは何かを確認していこう。人材ではなく人財・とは、人が財(たから)として価値を生む存在であることである。そんな人財とは、一人一人が自律的に働き、課題を発見し、その解決に新たなアイデアを生み出したり、あるいは周囲を巻き込んで変革を起こす存在である。したがって、人財力とは、人財が企業価値を生む力である。
たて構造の「組織力」では、そんな人財ではなく、均質的な社員、すなわち人材・が求められていた。よく言われるように、どこを切っても同じ顔が出てくる「金太郎飴」である。トップあるいは中央がすべてを仕切り、その指示で動かせるためには、「金太郎飴」が求められていたのである。ところが時代の流れのなかで、とくにIT時代の変化のスピードに追いつけなくなり、その対策として個人の力を強化する必要が求められてきた。
個人の力を強化することは大切だが、残念なことに、それを個人間の競争に求めた。すなわち、そこで導入されたのが成果主義賃金体系だった。しかし、あまりにも性急な導入から職場の人間関係が希薄になり、結果的には、たて構造の「組織力」を支えてきた職場の信頼関係も壊れる事態となったことはご承知の通りである。

 

やる気の生まれるメカニズム

 

チャート1 行動するパーソナリティ「ジョハリの窓」

チャート1 行動するパーソナリティ「ジョハリの窓」

ではどのように、従業員が人材から人財へと変化してくのか。まず、一人ひとりが自律的に働き、行動するパーソナリティが生まれるメカニズムに着目したい。
一般的に「やる気のある人」と呼ばれているパーソナリティは、自律的に行動する人のことである。この「やる気」の生まれるメカニズムを、行動心理学で解説される「ジョハリの窓」で説明していこう。

「ジョハリの窓」では、自分のこころを他人とのかかわりのなかで四つの領域(窓)に分け、図におけるⅠの開放領域(自分も他人も知っている自分)が広がると、自己理解が深まり、コミュニケーション力が高まり、行動するパーソナリティが生まれることを明らかにした。
すなわち、会社のミッションや経営理念を深く理解することや、そのなかでの自分の役割を知ることにより、図におけるⅠの横軸が広がり、さらに、上司や部下、同僚とのコミュニケーションが活発になることにより、自分のことが会社・上司に理解され、図におけるⅠの縦軸が広がる。
その結果、会社のことをよく理解し、会社・上司に自分が理解されることで、図におけるⅠの領域が広がり(開放)、行動する自分が誕生するのである。すなわち、この「ジョハリの窓」の開放領域が広がればこそ、社員は自分で自分の状態がわかり、自分と他者の双方の状態を認知することにより自律的に行動するようになる。さらに他者に適切な働きかけをしながら、社内外の活力を引き出して周囲を巻き込みながら変革をやり遂げる存在になっていくのである。

組織活力なくして人財成長なし

 

「ジョハリの窓」の説明で理解されるように、やる気とは個人の問題というより、他者との関わりが大きく左右している。ところが、日本の企業の人事部の多くは、個人の人材育成には熱心だが、そのもとになる組織のあり方や組織風土づくりに正面から取り組んでいない。おそらく、人事部が企業の一部門に過ぎないという思い込みから、それが障害になっているように思える。
私はこれまで、人事部を、企業の一部門としてではなく、経営戦略と一体になった戦略パートナーとして機能させ、会社を活き活きとした組織にするための部門として「経営人事部」の発想を提案してきた。「人材開発には積極的だが組織開発はできない」ということでは、せっかく「人を活かす」経営が意識化されても、人は活かせないということになる。いくら個人の能力が秀でていても、組織に活力が失われている状態ならば、その個人のさらなる成長は望めない。すなわち、「組織活力なくして人財成長なし」なのである。では、人を活かす組織、すなわち会社を活き活きとした組織にするために「経営人事部」に託されている組織戦略のポイントを整理していこう。

組織活力を生むマネジメントとしては、次の3つにまとめることができる。
1)現場小集団主導の組織戦略
2)情報の共有化戦略
3)適材適所の人事戦略

最初の「現場主導の組織戦略」では、現場に大きな権限と情報を持たせて、その現場の小集団リーダーにその集団の経営者という意識を持たせること。さらに、その集団のメンバーが自分の役割を認識しやすくなることで、現場が自律的に課題発見・解決することを可能にする。
従来の、ピラミッド型の組織のなかで上司の指示に従ってやっていればよい時代とは違い、各部署の従業員は他の部署と直接コミュニケーションを図り、自律的に行動を決定することが求められる。そのために2)の「情報の共有化戦略」として、部署ごとに持っていた情報に他の部署がすばやくアクセスできるよう、横断的な情報の共有化が図られるように整備する必要がある。
3)の「適材適所の人事戦略」では、たんなるローテーション人事ではなく、従業員一人一人の個性を深く知り、特性・適性を見抜いて、ベストの適材を適所に配置することが組織活力を生むうえで重要になってくる。

(チャート2 人財力と組織活力)

(チャート2 人財力と組織活力)

組織との関わりのなかで人財は成長し、その人財は活力ある組織のなかでより価値を高める。そんな人財と組織力の関係があってこそ、「人を活かす経営」が成立し、新しい企業価値の創造に向かわせるのである。

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