ビジネスコラム 第11回「評価とリンクさせた賃金制度の運用」

企業が永続的に成長するためには、組織の一人ひとりの能力を引き出すマネジメントのしくみと評価制度が不可欠であることを、前回の第十回の「評価制度が人財を成長させる」では明らかにしてきた。今回は、業績評価とリンクした賃金制度について提案していく。

 

評価が人を育て、業績を向上させる

 

図1- 賃金制度の変遷

終身雇用制度が一般的だった1990年代までは、年齢や勤続年数とともに賃金が増える年功型の賃金が多くの企業で採用されてきた。
しかし、経済環境の急激な変化により、賃金の高止まり現象を引き起こし、年々人件費が膨らみ、経営を圧迫するという問題点があった。たとえば、公務員の場合、税収の低下に伴い、人件費が国、地方を問わず、財政を圧迫していることは周知の事実である。
そこで、人件費の是正に向けて、多くの企業で採用されたのが成果主義の導入である(2000年代)。
しかし、この成果主義は、業績アップを重視するあまり、人材の育成がおろそかになってしまう、という問題を孕んできた。そのため、成果主義を見直したいと言う要望が企業から数多くあがった。 そんな中、現在、注目されているのが人材価値アップ型の賃金制度である。
人材価値アップ型の賃金とは、成果実績主義を活かしつつ、単なる目先の業績だけを追い求めるのではなく、業績を上げるまでのプロセスにも重視した賃金制度である。

 

メリハリのある賃金制度が求められる時代へ

 

図2-賃金の3つの性格
出典:『賃金決定の手引』日本経済新聞社 笹島芳雄 著

現在の賃金制度において、もうひとつ特筆しておきたいのが、賃金決定の手法である。これまでは、社会および業界のベース賃金を基準とした決定が主流であった。
これは、社会の経済状況や景気にあわせて、社員一人ひとりが安定した生活が送れるよう配慮された手法ともいえる。 これに対して、最近は、売上げや収益に見合った賃金を「業績にあわせて配分する」という企業が増えてきている。
この手法は、賃金の高止まりを解消し、経営を圧迫せずに「メリハリのある賃金制度が確立できる」というメリットがあり、中堅・中小企業にとって非常に運用しやすい手法になっている。また、企業に対する貢献度が明確に昇格・昇給に反映されるようになっているため、社員のやる気を引き出すことができる。
ただし、業績が社員の生活にダイレクトに反映されてしまうため、業界の賃金水準を配慮した上で、最終的な賃金を決定する必要がある。

 

人を活かす賃金制度とは?

 

人材価値アップ型の賃金では、単に業績だけではなく「プロセスも重視する」と先に述べた。
では、具体的にどのようにプロセスを評価し、賃金を決定するのであろうか。運用例をもとに詳しく見ていこう。 人材価値アップ型の賃金では、等級制度を導入し、等級に応じた職責、仕事内容を明確にしている。
そのため、社員にとっては、企業や組織でのキャリアステップが明確になり、将来的なキャリア設計や展望が描きやすくなるといった、メリットがある。
つぎに、業績評価と賃金はどのようにリンクさせていくのか、具体的な例を上げてみていこう。様々な方法があると思うが、ここでは、3つの評価を組み合わせたものを紹介する。まず、「成績評価(=業績への貢献度を評価)」と「意欲・態度評価(=仕事に取り組む上での心構えや態度を評価)」の2つの業績評価を実施する。
評価期間は、前期(4~9月)、後期(10~3月)とし、この評価を賞与に反映する。
また、この2つの評価に「発揮能力評価(=行動プロセスを評価)」を加えて、あわせたものが年間の業績評価となり、昇給、昇格に反映する。

 

つぎに、業績評価に基づき賃金を決定する。
従来は、昇進にともない定額の昇給を行う賃金テーブルによる考査が主流であったが、最近は経営資源や収益にあわせた昇給額を決定する「ポイント式」が主流になってきている。
以下は、1ポイント当たりの単価を決定する公式である。このため、ポイント式では、その年の売上・利益に応じた賃金が定義できる。
 
1ポイント当たりの単価=経営資源÷すべての社員の合算ポイント
 
ご紹介してきたように業績評価と賃金をリンクさせた人財価値アップ型の賃金制度を上手く活用することで、社員のやる気を醸成するとともに、無駄のないスリムで活力のある企業文化の形成が可能になる。
 
次回は、最終回となるが「人事システムの可視化と後継者問題」について紹介したい。

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