ビジネスコラム 第10回「評価制度が人財を成長させる」

前回の本連載(第九回)では 、高度成長期における管理職と、現在のような低成長期における管理職の役割が変化していることを、日本能率協会の 『当面する企業経営課題に関する調査』 をもとに明らかにしてきた。
また、出口の見えない不況下では、管理職は経営陣の一員として、人財を成長させるためのマネジメント能力が求められていることを言及してきた。

それでは、人材を成長させるためのマネジメント能力とはどのようなものであろうか。
今回は、管理職に求められるマネジメント能力と評価制度について詳しく提案していく。

 

人財を成長させるマネジメントとは?

 

これまで多くの企業は、従業員に対して、細分化された仕事の中で定められた職務を正しくこなす能力を要求してきた。
そのため、人事制度においても、売上アップと利益アップに重点が置かれ、部下を育成するというマネジメント能力が後回しにされてきた。
特に、中小企業の管理職においては、「人を育てる」という意識が低い傾向にある。たとえば、管理職の力が100であるとしたら、部下の力を50で留めておきたい、という意識が働いてしまう。
なぜならば、他人を育てることは自分以外の人財の評価を高めることになるからだ。残念ながら、こうした管理職の意識が結果的に人財力の停滞につながり、企業の成長を硬直させる原因の一つとなっている。
 
もし管理職が企業の経営理念に沿って行動する “自分の分身” を作ることができたら、100の力を持った人材が1人、2人と成長し、企業の価値を相乗的に高めることができるであろう。
つまり、経済が低迷する現在の企業経営では、業績のアップとともに 「自分以上の人財に育てる」 といった管理職のマインドが非常に重要になってくる。
管理職が私利私欲を捨て、部下の成長と組織の求心力の向上にどれだけ貢献できるかが、企業価値を高める鍵となる。

 

部下の人生に花を咲かせる上司

 

「教師であることとリーダーであることは、車の両輪のようなものである」 これは、米国国防大学・司令官 ペリー・M・スミス少将の言葉である。
彼はさらに 「リーダーは積極的に部下の技量を磨き、洞察力を高めさせ、経験を分かち合い、そして部下が成長し独創力を発揮するのを助けるために緊密に連携しつつ働くべきである。
教えることによってリーダーは、さまざまな面で部下にヒントや動機を与え、影響を及ぼす」 と言っている。
また、ウィリアム・A・コーヘンの 『ウエストポイント式仕事の法則(日経BP社)』 では、「部下を動かす4つの方法」で、「部下の全行動の責任を引き受けよ」として、「部下の行動の怠惰もすべてあなたの責任となる」と紹介している。
 
すなわち、人財成長型企業では、「人のために働く」 リーダー像が求められている。図1に人財成長型企業に求められるリーダー像を示した。部下の気持ちを受け止める包容力を持ち、部下の成長力を助け、さらに部下の人生に花を咲かせようとする心構えが管理職には求められていることがわかるだろう。このような人間的な魅力にあふれ、人財を育成する能力を発揮するリーダーを育てるためには、従来のような業績アップだけに重点を置いた評価制度ではなく、人財開発にも重きを置いた評価制度を作ることが大前提となってくる。

人財成長型企業に求められるリーダーの心構え
1.部下を自分以上の人財に育てるという心構え
2.部下にどのような状況になっても生き残れるだけの技量を養わせようとする心構え
3.部下の人生の礎(いしずえ)となる
4.部下の人生に花を咲かせようとする

そのために、管理職が人間力を磨かなければならない

1.部下の気持ちを受け止める包容力
2.部下の見落としている部分を、直接的な言葉で伝えるのではなく、気付かせる育成力
3.部下の心理をポジティブに持っていく力
4.方向性を明確に示し、部下がその方向性を信頼し、決意し、自分に何ができるかを考え、行動できるように持っていく力

 

業績目標と人財の成長をリンクさせる評価制度

 

それでは、人財成長型の人事システムには、どのような評価制度が必要なのだろうか。 最も大切なことは、企業の業績目標と個人の目標管理をしっかりリンクさせることである。
業績評価を行う場合、ともすると個人を評価することだけが目的になってしまうことがあるが、人事評価の目的は、あくまでも組織の事業計画がスムーズに運営されたかどうかを評価するものである。
言いかえれば、人財として、個人としてどれだけ成長したかを評価するものであることを忘れてはならない。
 
私は業績目標と個人の目標管理をリンクさせるために、評価手順のルール化を推奨している。その手順を簡単に紹介しておこう。

評価手順のルール
(1)従業員一人ひとりが個人別実行計画書(チャレンジシート)を作成する
(2)部下が作成したチャレンジシートと上司が描いた青写真と面談した上ですり合わせ、修正を指示し最終完成までフォローする
(3)個人は、完成したチャレンジシートに沿って職務を遂行する
(4)上期、下期の査定時期において、目標に対する自己評価を行う
(5)上司は、この自己評価を参照しながら、業績考課を実施する

チャレンジシートの作り込みは、その部門、さらに企業全体の経営を大きく左右するものと言っても過言ではない。
激しく変化する市場環境の中で、永続的に企業を発展させ、市場環境の変化に適応できる人財を育成するために、チャレンジシートの作成は、最も重要なプロセスだと言えるだろう。
 
次回は、「評価とリンクさせた賃金制度の運用」をテーマに人材成長型企業の賃金制度について提案したい。

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