ビジネスコラム 第1回「経営力とは組織力」

人を活かせば成長余力は限りない
 

~人材から人財へ~

失われた10年がいつのまにか20年になり、その出口がまだ見えない日本経済。しかし、その間に、企業の成長能力の源泉が「モノ、カネ」から「ヒト」に移っていることはあまり知られていない。すなわち、「モノ、カネ」に従属するものとして「ヒト」がとらえられ傾向が強かったこれまでの企業経営とは違って、経済の低成長時代を突破する生産性向上のカギは付加価値の高い「人財」が握っているのである。

今や、いかに仕事の意欲にあふれ、働きがいを感じる「人財」を育て、組織活力を生み、高収益体質をつくり出すかという「雇用の質」を高めることこそが会社経営の最大課題といって過言ではない。それにつれて、経営者にとって人事・労務のマネジメント部門はさらに重要度を高めていくことが求められる。

私はこの二十年間、企業活力の源泉は「人」であるという視点から、多くの企業を診てきた。そして「活人経営コンサルタント」™と称して、「人財成長を基調とした人事システムをつくり上げていく」ことを手がけてきた。

そのコンサルを通じて分かったことは、残念ながら、まだまだ企業は人を活かすことができていない、まだまだ働く意欲が引き出されていないということである。だれでもできる仕事をこなすことの繰り返しに終始する「人材」から、やりがいをもって意欲的に価値を創造する「人財」へと成長させていくことができるならば、その企業の成長余地は限りなく大きい。

本連載コラムでは、12回に分けて、私が仕事のテーマとしてきた「企業活力の源泉は『人』である」という視点から生まれた「人財価値を高める人事システム」の考え方から制度設計、具体的な運用法まで、会社が生き残りをかけて組織活力をつくるための人事賃金制度のあり方をお伝えしていきたい。

 その第一回として、経営力とは組織力であることを確認していく。

 

高度経済成長期は、たて構造の組織力

 

これまで経営といえば、資金力であり、あるいは商品力がカギを握るとされていた。70年代、80年代の高度経済成長期における右肩上がりのトレンドでは、銀行からの借り入れ、あるいは市場からの資金調達力が経営の根幹であった。なぜなら作れば売れる時代では、事業設備の拡張スピードが大きく経営を左右したからである。

さらに、商品力に関しては、他社の売れている商品を売る、あるいは先行する米欧の商品の後追いをしていれば成長は約束されていた時代だった。そこには、経営トップの力量は重要なファクターであったが、企業価値を高めるうえで、「ヒト」が大きな役割を担う余地は少なかったといえる。

もちろん、当時から組織力は大切だとされてきた。しかし、たんに上位下達を効率よくこなす組織力だった。機械・設備の操作・補助として、あるいは商品を売るために効率よく配置・稼動させるために必要なたて構造の組織力である。

 

「人の想い」を活かす舞台装置としての会社

 

しかし、低成長時代の会社経営には、設備・商品力の有形資産だけではなく、経営者のリーダーシップを含め、社員のイノベーション能力、「人財」の質、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の見えない「知的資産」、すなわち無形資産が重要になっていると指摘されるようになった。

その変化は想像以上に急速で、無形資産が企業価値に占める割合が近年とみに高まっている。知的財産に詳しいある国際弁護士によれば、無形資産が企業価値に占める割合は、1970年で50%だったのが、1990年には70%に高まり,2010年には80%に達しているとされている。企業価値の源が、有形資産から「知的資産」を生み出す「人財」の時代へと完全にシフトしていると考えたほうがよいのである。したがって、時代的変化に対応して、競争力を強化する経営や企業価値向上のためには「人財」や彼らが生み出す「知的資産」を拡大させていくことは必須条件である。

したがって、これからの企業経営力の組織力とは、たて構造の組織力ではなく、たて・よこ・斜めがより柔軟な、より意識の高い組織が求められる。なぜなら、その無形資産を生み出すのは、経営トップだけではなく、企業に働く全員の「人の想い」(価値観)にほかならないからである。

すなわち、いかに人を活かし、「人が主役」の会社組織を創っていくかが企業価値向上のカギを握り、そして、「人の想い」を活かす舞台装置として企業がいかに機能できるか、そして、その「人の想い」を結集させた組織にしていくことができるのかが問われているのである。

 

「企業の存在意義」を共有する組織へ

 

これからの人事・労務部門の役割は、「人の管理」の視点ではなく、人によって構成される組織としての「企業の存在意義」を見つめなおし、企業理念・経営方針を問い直して企業ミッション(使命・理念)を明確にし、それを社員たちと「誇り」をもって共有する組織を創造することである。

すなわち、従来のややもすれば使い捨て的な「人材」の見方からではなく、従業員の働きがい、生きがい、人生の充実感などを重視し、企業ミッション(使命・理念)と従業員一人ひとりの「生きる」ミッション(使命感)をすり合わせながらそれぞれの存在価値を相互に感じ合うような「企業組織づくり」である。いわば、そのような組織づくりによって生み出された人財活力が発揮されて、企業価値を実現する最強企業に導くのである。

次回は「人財力は組織活力から生まれる」と題して、組織活力が人財力を生んでいくメカニズムを見ていきたい。

 

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